年をとったらカロリーをとりなさい
年を取ったら、BMI 25~30の「ぽっちゃり体型」が正解である。こんな記事が目に留まったので、ご紹介します。
ここでいう「年をとったら」とは言うのは、具体的に年齢で表すものではなく、高齢者でも個人差があるので、年齢で表すことができないですが、これから紹介するものを参考にみてください。
新しい健康の常識がさまざまな最新研究によって明らかになっている時代です。在宅医療のエキスパートであり、6,000人超の高齢者を診てきた「佐々木淳」先生が明言したエキスを具体的にご紹介しますので、今後の食生活を見直していただければ幸いです。
食事制限が老衰のはじまり
長生きで元気な方は「もりもり食べている」という共通点があります。世の中には「糖質の摂り過ぎに注意」「野菜を多く摂る」「粗食の方が健康によい」などさまざまな健康法や食事法があります。確かに食事の「質」は大切ですが、高齢者にとっては「質」以上に大事なものは「量」です。とにかくたくさん食べて体重を増やすこと。在宅医療にて多くの高齢者を診てきた経験から「太っている高齢者ほど健康」というのは結論です。
とはいえ、多くの人は「健康のためには適正な体重が大事なのではないか?」と疑問に思うかもしれません。実はこれが間違っているのです。高齢者の場合「肥満」の方の死亡率が低いことが明らかになっています。
・男性の場合;BMI 27.5~29.9 (中程度の肥満体型)
・女性の場合;BMI 23.0~24.0 (ちょっとぽっちゃり体型)
さらに驚くのはこれ以上体重が増えても、女性の場合は BMI 29.9くらいまでは標準とされるBMI 22.0のときと死亡リスクは変わらずに横ばい。男性は痩せている人に比べ、太っている方の死亡リスクが明らかに低い。米国でも同様の調査結果が出ています。
つまり、65歳を超えて高齢者になると「標準体重=健康」という常識が非常識になるのです。
しかしながら、日本の高齢者は加齢とともに痩せていく人が多いのが実態です。
実際、在宅高齢者の60%がBMI 18.5未満の「低体重」に該当します。女性の場合、BMI 16未満(重度低体重)が約3割を占め、死亡リスクはBMI 22の人に比べて2.6倍にアップします。
年をとって痩せていく国、日本
日本では「年相応」という言葉があり、加齢に伴い食が細くなり体重が減っていく。痩せていくのは当たり前と思われています。しかし、中国や台湾、欧州の高齢者ケアの現場をみると、皆さんふっくらしていて、食事を楽しんでたくさん食べています。年齢に伴って痩せていく国というのは、実は日本と発展途上国ぐらいなのです。
高齢者の食欲が落ちるメカニズム
なぜ、標準体重より太っている方の死亡リスクが減るのか。その理由は高齢者の場合、肥満による高血圧や中性脂肪、高コレステロールなどよりも、別に大きなリスクがあるからです。それは「低栄養」と「フレイル(虚弱)」です。その「フレイル」を防止する有効な手段が「太る」ことなのです。高齢者の食事量の低下は「衰えの悪循環」を招く第一歩です。
衰えの悪循環のメカニズムは、食事の量が減ると、体を動かすためのエネルギーと、体の材料となる「たんぱく質」が不足します。この状態を「低栄養」といいます。低栄養になると、不足分を補うために、特に筋肉のたんぱく質が優先的に分解され、筋肉量が減少します。そうなると高齢者は「フレイル」の状態になり、転倒や骨折のリスクが高まります。また、喉や舌の筋肉量が減ると、食べたり飲みこんだりする機能も低下し、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。運動機能も低下するので出歩くのがおっくうになり、1日中自宅で過ごすようになります。そうすると食欲が落ち、さらに筋肉量が減ります。同時に心身の機能も低下し、認知症のリスクが高まります。これが「衰えの悪循環」です。
こうした状況で骨折や肺炎を起こして入院すれば、衰えが一気に加速してしまい、自宅に戻れなくなる恐れが高まります。
多くの人が人生の最期を住み慣れた自宅で送りたいと望んでいますが、実際は自宅で穏やかに最期を迎えられる人は一握りで、大多数の人は病院などの医療機関で不本意な亡くなり方をしています。ベッドで寝たきりで点滴や胃ろうでどうか命をつなぎながら、ガリガリに痩せ衰えて「生かされている」ような状態で最期を迎えます。
一方でぽっちゃりとした高齢者は入院してもさほど体力や筋力が落ちず、退院後も比較的スムーズに回復するケースが多いです。この「衰えの悪循環」を防ぐ有効手段は「しっかり食べること」です。
筋肉量はメンテナンスしないと1年間で約1%ずつ減っていきます
30歳の時の筋肉量を100とすると80歳では約6割失われ40%に減少します。
60歳過ぎたら健康常識を180度変える!
現役世代と高齢世代では「健康常識」を180度変える必要があります。
現役世代は健康のため食べ過ぎに注意して体重を管理し、血圧や血糖、脂質を下げ、メタボリックシンドロームや動脈硬化の低減することが大切です。
しかし、高齢世代ではリスクが異なり低栄養やフレイル、サルコペニア(筋肉減少)に気を付けなければなりません。
現役世代と高齢世代では「健康常識」を180度変えるタイミングは個人差はありますが、60歳以降で次のような事象があれば健康常識を切り替えてください。
例えばこんな事象です。
① ペットボトルのフタが開けられなくなった。
② 片足立ちで靴下をはこうとするとよろけてしまう。
③ 歩く速さが明らかに遅くなった。
④ 食事量が落ちてきた。
⑤ 体重がめっきり減った。
⑥ 食事中にむせることが増えた。
⑦ 薬やサプリメントなど大きな錠剤が飲み込みにくくなった。etc
これらの項目のうち複数に当てはまる場合はすぐにギヤチェンジすることが重要です。
高齢者の基本は「一にカロリー、二にたんぱく質」
最優先に確保すべきは「カロリー」です。
カロリーは人間が生きていくために必要な熱量です。この熱量が不足すると身体の筋肉中のたんぱく質を分解してエネルギーを賄うため、筋肉量と体重が減ります。つまり、日々の食事で十分なカロリーが摂取できていないことが低栄養や低体重を招き高齢者の衰えを加速させる最大の要因になります。
次に摂取すべきなのは「たんぱく質」です。
たんぱく質が不足すると筋肉量を維持することが出来ず「衰えの悪循環」に陥ります。この2つを十分に摂れば、ビタミンやミネラルなどの細かい栄養素はさほど気にする必要はありません。極端に偏った食事をしない限りそうした栄養素は自然にほぼカバーされます。
特に身体の衰えが目立ち始めた高齢者は「野菜たっぷりよりもお肉たっぷり」「ごはんよりも、おかずを多く」「脂ものもなるべくとる」ことをおすすめします。高たんぱく質な食事では肉、魚、卵、大豆、乳製品を多くとり、特に肉と魚を積極的に食べてください。
高齢者におすすめの食べ物
高齢者におすすめの食べ物としてはハンバーガー、牛丼、ピザ、フライドチキン、餃子、焼肉などです。また、日常の食事にカロリーとたんぱく質を手軽にプラスできる便利な食品としては「サバ缶」がおすすめです。サバ缶は1缶で300~400キロカロリーあり、たんぱく質も豊富でさらにDHAやEPAといったオメガ3脂肪酸(不飽和脂肪酸)である健康にいい魚の脂もたっぷりでカルシウムやビタミンDなどの成分もとれます。
ギアチェンジ後の食事で迷った場合は?
・ごはんで迷ったら「玄米」を選ぶより「白米」
・鍋で迷ったら「しゃぶしゃぶ」を選ぶより「すき焼き」
・どんぶりで迷ったら「海鮮丼」を選ぶより「カツ丼」
・スイーツで迷ったら「和菓子」を選ぶより「洋菓子」
・飲み物で迷ったら「コーヒー」を選ぶより「ココア」
・お寿司で迷ったら「マグロ」を選ぶより「シメサバ」
・定食で迷ったら「和食」を選ぶより「中華料理」
・パスタで迷ったら「ペペロニチーノ」を選ぶより「カルボナーラ」
なお、食事は毎日3色きちんと食べるようにしてください。食事を抜くのは厳禁です。衰えのある高齢者にとって一番よくないことです。食欲がないときは「おかゆ」より「チョコレートやアイスクリーム」が食べやすくておすすめです。
食欲が落ちる原因はクスリかもしれない
多くの高齢者は複数の診療科にかかっています。ぜひ気を付けてもらいたいのは、臓器別に主治医を持つことはやめることです。内科、循環器科、整形外科、眼科、歯科など医師の数が増えると分業が起こります。循環器の医師は心臓だけを診るので、心臓を守るために血圧を下げる薬を処方します。その薬によって、患者さんが心臓以外の疾患で具合が悪くなる可能性についてはあまり考慮されません。血圧を下げたことで立ちくらみを起こして転倒し、骨折してしまう危険性があります。そうすると次は整形外科の先生が診る。。。
ですから複数の診療科にかかっている高齢者は1人ですべての病気を診てくれる「かかりつけ医(総合診療委)」を見つけることをおすすめします。そして、その先生に血圧や血糖の管理、薬について相談してください。実際、食欲が低下する原因として薬の副作用が多くみられます。複数の診療科にかかっていると薬の量が膨大になります。それを見直すだけで食欲が改善するケースが少なくありません。
食べることは人間の本能
高齢になると食が細くなると言われていますが、食欲は人間の基本であり、本能なので食べたくないという人は基本的にいません。その本能を抑えている原因をきちんと調べることが大事です。年のせいだと片付けずに食べられない理由を家族や周囲の人が考えてあげることが大切です。
ダイエットをしていないのに半年で2Kg以上体重が減っている場合は要注意です。
この時点でしっかり食べて体重を増やし、体を動かすようにすれば元に戻りますが、放っておくと要介護に進んでいきます。早期発見で改善に取り組むことが大切です。
著書「在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい」/医療法人社団悠翔会理事長 佐々木淳先生
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