脳のクセを知ってトラブルを回避しよう!
皆さん、日頃の生活の中で「何故、あの時、あんな行動をしてしまったのだろう?」「なぜ、すぐに信じて騙されてしまったのだろう?」と後悔したことはありませんか?
実は、現代社会で起こる多くのトラブルの裏には、私たちの脳に太古の昔から備わっている『思考のクセ』が潜んでいます。
ネット詐欺やSNSのデマ拡散、ご近所トラブルから身を守るために、知っておくべき、脳に潜む「思考のクセ」をお伝えします。
この脳の仕組みをあらかじめ知っておくだけで、私たちの日常生活におけるトラブルは劇的に減らすことができます。ぜひ最後までお読みください。
私たちの生活はスマートフォンやインターネットの普及で非常に便利になりましたが、反面その一方で、ネット上には、根拠のないデマやフェイクニュースが飛び交い、さらに投資詐欺やロマンス詐欺といった巧妙なワナが急増しています。
それだけではありません。家庭内での些細な夫婦ゲンカやご近所とのちょっとしたすれ違いトラブルなど、私たちは日常のいたるところで、緊急事態に直面しています。
自分は大丈夫、騙されないし、冷静だ、と思っていませんか?
実は、こうしたトラブルの被害は、高齢者だけでなく20代〜50代といった働き盛りを含む、全世代に拡大しています。
しかも、これらの多種多様なトラブルの裏には、実はすべて、全く同じ一つの共通原因が潜んでいます。
何故、人は騙されたり、誤った情報を信じたり、身近な人と衝突してしまうのでしょうか?
これらすべてのトラブルは同じ根っこから生じています。
その根っこ正体こそが、脳の思考のクセの暴走です。
例えば、詐欺師から何度もメッセージが届くうちに、なんとなく信頼できるかもと錯覚してしまう(単純接触効果・真実性の錯覚)。
SNSで悲しいニュースを見て、感情が揺さぶられ、みんなに知らせなきゃ!と未確認情報を拡散してしまう(感情の暴走)。
自分は常に客観的で正しいと思い込み、他人の意見を受け入れられずに、衝突する(素朴実在論バイアス)。
これらは個人の性格が悪いからではなく、脳がエネルギーを節約しようとしてショートカットする直感判断を暴走させているのです。
オレオレ詐欺やネット詐欺に引っかかるのは、判断力が衰えた高齢者だけでしょ? そう思っているあなたこそ、実は最も危険です。
円グラフが示すデータを見てください。なんと、詐欺被害者の最大のボリュームゾーンは、50代(25.9%)であり、次いで、60代(25.0%)、40代(16.1%)、30代(8.6%)と続いています。
高齢者だけでなく、ネットに慣れ親しんでいるはずの現役世代や若者までもが、毎日たくさん騙されているのが現実なのです。 自分は絶対に騙されない、という自信こそが、脳の防衛システムを完全にオフにしてしまう最大のワナなのです。
詐欺やエラーは、知性の有無にかかわらず、人間の脳の構造そのものに組み込まれた共通のバグだからこそ、全世代の誰もが被害者になり得るのです。
私たちの脳の中には、常にせめぎ合っている、2つの脳がいます。
まず、システム1(直感の脳)。システム1は、目の前に美味しそうなケーキが現れると、何も考えずに、食べたい!と即答する、非常に素早く、感情的で衝動的な直感の脳です。
一方、システム2(論理の脳)。システム2は、ケーキを見て、待てよ、このケーキは300キロカロリーだ。今食べると今日の総摂取カロリーが目標を超えてしまうぞ…と、じっくり時間をかけて理性的・論理的に判断する倫理の脳です。
このシステム1とシステム2のパワーバランスについて、もう少し詳しく解説すると、
システム1(直感)はとにかく仕事が早いです。一瞬で答えを出し、私たちの生活の9割以上の細かな判断を支えています。しかし、欠点があります。それは、疲れている時ほど活動が優位になり、とんでもないエラー(勘違いや衝動買い、売り言葉に買い言葉など)を起こしやすいということです。
対するシステム2(論理)は、非常に頼りになる知性派です。しかし、脳のエネルギー(ブドウ糖や認知資源)を大量に消費するため、起動するのがものすごく遅いという致命的な弱点があります。
脳はできるだけサボりたい臓器(省エネしたい)なので、疲れていたり、焦っていたり、不安な状態のときには、システム2を眠らせたまま、すべてをシステム1の直感だけで処理しようとしてしまいます。
これが、騙されたり、デマに飛びついたりする最大の原因です。
なぜ、これほどまでに賢い現代人が、ネットのデマを信じて拡散したり、詐欺のメッセージに返信してしまうのでしょうか?
それは、私たちの祖先が生き抜くために培ってきた生存戦略が、現代社会において予期せぬ暴走を起こしているからです。
私たちは、予期せぬ、強い不安や怒りを感じると、脳の奥深くにあるセンサーが激しく反応します。扁桃体センサーです。このセンサーがオンになると、脳は、今すぐ逃げるか、戦うか!という緊急事態モードに入ります。
すると、論理的なシステム2は強制終了され、100%直感のシステム1だけが暴走。目の前にあるデマ情報を、みんなに伝えなきゃ危ない!と信じ込んだり、詐欺師の今すぐ振り込まないと大変なことになるという脅しにそのまま従ってしまうのです。
この扁桃体は、私たちが、恐怖、不安、緊張、怒りを感じた瞬間に、瞬時にアラートを鳴らす超高感度センサーです。
人類がサバンナで暮らしていた頃は、このセンサーのおかげで肉食獣からいち早く身を守ることができました。しかし、この高感度センサーは、現代の情報社会においてはあまりにも過敏すぎます。SNSで不快な投稿を見たり、怪しいメールで脅されたりしただけで、まるで、目の前にライオンが現れた、かのように激しく反応し、私たちの理性を完全にハイジャックしてしまうのです。 では、この過敏すぎる扁桃体をなだめ、システム1の暴走をストップさせて、論理的なシステム2を呼び戻すにはどうすればいいのでしょうか?
その答えは、心理学者や認知科学の専門家が推奨する究極の対策にあります。
実はこのアプローチ、一瞬の判断ミスが命取りになる航空機のパイロットの緊急事態対応プログラムと全く同じ考え方なのです。
航空パイロットは、飛行中に警報が鳴り響く極限状態の緊急事態でも、冷静さを失わずに手順を踏む訓練を受けています。
そのプロのノウハウを、私たちの日常生活に応用した、今すぐ使える3つの緊急対策プロトコルを、具体的にお伝えしていきます。
それでは、脳の暴走を抑える「3つの究極の対策」のうち、最もシンプルで最も強力なファーストステップをご紹介します。
まず、緊急対策プロトコル1:何か起こったとき、何も行動せず「1.5秒」だけ待つです。
驚くべきことに、私たちの扁桃体センサーによる最初の猛烈な感情の興奮(システム1の超暴走)は、発生してからピークを過ぎるまでにわずか1.5秒しかかかりません。
カッ!となって、大声を出しそうになったとき、怪しいメールを見て慌ててリンクをクリックしそうになったとき、あるいはショックな情報にすぐ返信したくなったとき。
どうか心の中で「1、2」と数え、この1.5秒の間、手も口も完全に止めてみてください。この極小の沈黙を作るだけで、脳の興奮はピークを過ぎ、論理的なシステム2が動き出す余白が生まれます。
1.5秒を耐えた後の次のプロトコルとして、
緊急対策プロトコル2:とにかく、「言葉」にするです。 言葉を使って物事を理解しようとすると、理性のシステム2が強制的に目覚めます。
最後の緊急対策プロトコル3:感情ではなく「事実だけ」を書き出すです。
何らかのトラブルが発生したとき、私たちの頭の中は、どうしよう!、あいつのせいで!、恐ろしい!といった激しい感情でグチャグチャに支配されてしまいます。
この状態を解決するためには、頭の中に渦巻くモヤモヤを外に連れ出してあげる必要があります。
やり方はとても簡単です。目の前にあるノートや手元のスマートフォンのメモアプリを開き、今、何が起きているのか、相手は何と言ったのか、といった客観的な事実だけをそのまま箇条書きで書き出してください。
自分の感情(怒りや不安)を一切排除し、カメラのレンズで撮影したかのように淡々と事実を文字にすること。これだけで、脳は急速に冷静さを取り戻していきます。
ここからは、現代人にとって最も脳の暴走が起きやすい場所、すなわち、SNSにおける具体的な防衛策を解説します。
SNSを見ていて、腹が立つ投稿ややたらと不安を煽るニュースを見つけて感情が激しく揺さぶられたら、以下の3つのステップを反射的に実行してください。
1. スマホの画面を伏せる: まずは情報を視界から完全に遮断します。
2. 物理的に距離を置く: スマホをテーブルに置き、自分は立ち上がって別の部屋に行くなど、物理的な距離を作ります。
3. 「5秒以上」待ってから操作する: 5秒以上待って、呼吸を整えてから次の操作を行います。
この3ステップは、ネット上のデマ拡散を防ぐだけでなく、衝動的なコメントの書き込みによるネット炎上や人間関係の破綻からあなたを完璧に守ってくれる盾になります。
SNSの投稿を見て心がざわついた瞬間、なぜ、5秒ルールがこれほどまでに絶大な効果を発揮するのでしょうか?
感情が揺さぶられたら、まずはスマホをひっくり返して画面をテーブルに向けて伏せます。
画面が光って通知が見えるだけでも脳は刺激を受けてしまうため、物理的に見えなくすることが肝心です。 そして、伏せた状態で、5秒以上待ちます。
この間、ゆっくりと深呼吸を2〜3回繰り返したり、コップ1杯の水を飲んだり、窓の外の景色を見るなど、全く別の物理的行動を挟んでください。
たった、これだけの工夫で、スマホの画面に吸い寄せられていた脳のフォーカスが完全に解除され、システム1の暴走スパイラルから驚くほどスムーズに抜け出すことができます。
緊急時の最初の実践アクション。
それが、頭の中のパニックを外に吐き出すための、事実の書き出しステップです。
仕事でトラブルが発生した、家族と激しい口論になった、あるいは怪しい請求メールが来て焦っている…。そんなときは、ペンと紙(またはスマホのメモアプリ)を用意し、感情を、一旦、絶対に横に置いて、以下のような客観的な問いかけに対する答えだけを箇条書きで書き出してください。
* 誰が、何と言ったのか?
* 何時何分に、何が起きたのか?
* 実際に失われたものや、直面している被害は何か?
主観的な感想やあの人は私を嫌っているといった邪推は一切書かず、ただ裁判所に提出する客観的な証拠を作るかのようなイメージで、事実のみを淡々とビジュアル化(文字化)していきます。
書き終えたメモを眺めると、先ほどまでの大パニックが嘘のように、なぁんだ、冷静に見れば大したことないじゃないかと俯瞰できるようになりますよ。
事実をすべて書き出したら、次はいよいよ、感情にアプローチする第2ステップ、感情の「理由」を書き出すに進みます。
怒りや恐怖をノートに書いたら、ますます怒りが湧いてくるのでは?と思うかもしれませんが、実は全くの逆です。
心が乱れているときは、自分の感情そのものを、まるで顕微鏡でのぞく科学者のように、分析の対象にしてしまうのが最大のコツです。
紙に、なぜ今、私はこんなに腹が立っているんだろう?、何がそんなに怖いんだろう?と書き、その理由をさらに掘り下げて言葉にします。
仕事でミスして、自分のプライドが傷ついたから腹が立ったんだ。お金を失うかもしれないと思って、将来が急に不安になったから怖かったんだ、といったように、感情の出どころ(正体)を突き止め、言葉のラベルを貼る。これだけで、脳の暴走はスッと魔法のように落ち着いていきます。
事実や感情を書き出すと良いのはわかったけれど、いちいちノートとペンを持ち歩くのは面倒くさいな…。そう思った方もご安心ください。
ツールはノートでもスマートフォンのメモ機能でも、何でも構いません。効果は、全く同じです。
大切なのは、きれいに書くことではなく、とにかく、頭の中だけで考えず、文字として外に吐き出すという行為そのものです。頭の中でモヤモヤ、ぐるぐると考え続けている状態は、脳のメモリを無駄に100%使い果たしている状態。
それを視覚化できる文字としてデバイスや紙に書き出すことで、脳は、よし、一旦この情報は外に保存したから、もう考えなくて大丈夫だと安心します。
このアウトプットの習慣こそが、詐欺やデマ、怒りの暴走を完全に遮断する、あなただけの最強の防壁になるのです。
専門家である京都大学名誉教授 楠見孝さんからは、対策をしても、脳のクセは絶対になくなりません。しかし、その存在を認識しておくだけで、トラブルは確実に軽減できるという。
システム1の認知的錯覚は、視覚における錯視と全く同じで、仕組みを理解していても「見え方(感じ方)」そのものを消し去ることはできません。(騙されそうになる衝動やカッとなる感情自体は自然に発生します)
心理学において重要なのは、バイアスそのものを消し去ることではなく、「バイアスが発生したことを検知し、適切な行動介入によって意思決定の致命的なエラーを防止する」メタ認知コントロール(意思決定のデバイアス技術)を確立することです。
最後に、とても重要な取扱注意のお話をしたいと思います。
今回ご紹介した素晴らしい対策(1.5秒待つ、事実を書く、スマホを伏せるなど)をマスターしたとしても、人間の脳に備わった思考のクセ(バグ)が完全にゼロになることはありません。
なぜなら、これは私たちの祖先が生き抜くために何万年もかけて構築してきた、生命維持に不可欠なシステムそのものだからです。
しかし、がっかりする必要はまったくありません。大事なのは、自分の脳は焦ったり不安になるとエラーを起こす存在なんだと事前に、知っておくこと。そして、エラーが起きることを大前提として、いつでもプロトコルを使えるように備えておくことです。
この謙虚な理解と備えこそが、あなたやあなたの大切な家族をトラブルから守る、現代社会における最大の防御壁になるのです。
いかがでしたか?
私たちの頭の中に潜む、あまりにも人間らしくて、少し厄介な思考のクセ。
ご紹介したパイロットの緊急手順にも通じる、1.5秒ルールや事実の書き出し、スマホを伏せる5秒ルールを、ぜひ毎日の生活の引き出しにそっとしまっておいてください。
感情が揺れ動く嵐のような瞬間に、きっとあなたを正しい方向へ導く羅針盤になってくれるはずでしょう。
【出点元】/NHK「あしたが変わるトリセツショー」(脳に潜む「思考のクセ」知ってトラブル回避!)
0コメント